日本有機農業学会設立趣意書

 1971年10月の日本有機農業研究会の設立以来、ほぼ四半世紀が経過した。当初「生産力無視の時代錯誤的な思想」と手厳しく批判された有機農業であったが、深刻な公害事件を教訓として、生命や環境の健全性は何よりも大切にされるべきと考える先駆的な生産者と消費者の粘り強い連帯の運動(いわゆる産消提携運動)により、有機農業の技術的・経営経済的可能性が次第に明らかになり、社会に共感の輪が広がっていった。近年では、一般流通業界までが顧客にアピールすべく差別化商品として有機農産物を扱うようになり、ついに国の政策レベルにおいても有機農業が政策対象に位置付けられようとしている。時代は大きく変わった。いや、連帯する草の根の実践が時代を変えたというべきかもしれない。

有機農業が社会的に拡大することは、とりもなおさず生命や環境への負荷が軽減されることであり、高く評価すべきことではある。しかし、有機農産物の一面的な商品化が先行し、「日本農業をめぐるトータルシステム(生産-流通-消費)の構造変革」と「経済主体(生産者、消費者、関連事業者など)の意識変革」を目指す有機農業の思想や運動の理念が無視されるのであれば、有機農業の健全な発展は期待しえないし、単純・無制限な利潤動機に基づく新たな市場競争を招来する可能性すら存在する。

近年、日本の有機農業は実践主体と方法の多様化などによって、当初の思想や運動の理念は次第に変質・拡散・空洞化に向かう傾向にあり、大きな岐路に立っている。また、有機表示ガイドラインや有機認証制度など表示規制に矮小化した国の施策が導入され、その傾向はますます加速されようとしている。この時期、理論的かつ実践的研究を通して、改めて「有機農業の健全な発展の道筋」を社会に提示していく「場」が求められている。

有機農業はすでに様々なところで論議されている。しかし、細分化された既存の学問分野や組織の下で「分断化された論議」に終始しているのが現状である。われわれは、そうした閉塞状況を改善し、有機農業を多面的・総合的に論議するため、学際的な「日本有機農業学会」を設立しようと考えた。理論的かつ実践的に有機農業に関わってきた研究者、技術指導者、生産・流通・消費に関わる人々が相集い、有機農業の健全な育成・発展の道筋を論議し、関係諸団体とも連携を図りつつ、有機農業の基本的な考え方や望ましい方法論を社会に提示していくことが求められていると判断したからに他ならない。

有機農業を理論的に研究してこられた方々、信念を持って運動に関わってこられた方々、ならびに今後、有機農業の世界をともに担おうとする方々の参加を期待する。

1999年12月12日

日本有機農業学会設立総会